ミラノ・コルティナ・オリンピックが終わって、次は“エンハンスト・ゲームズ”
2026.03.05
オリンピックロスになっている方々もいらっしゃるでしょう。
毎日手に汗を握り、「よくやった!」と拍手したりガッツポーズをしていた方々。
三浦璃来選手のように、驚きのあまり思わず両手で口を押えて、木原龍一選手を観てもらい泣きしてしまった方々。
神経伝達物質のドーパミンが大量に放出され“快感の渦”のなか、ノルアドレナリンやセロトニンも放出され“気分の良い興奮”状態です。
「次は何を観ようか・・」とワクワクしている時も、ドーパミンが放出されているのでしょう。
このオリンピックに気分高揚した方々は、“エンハンスト・ゲームズ”をどのように評価するでしょうか。
今年5月にラスベガスで予定されている、薬物使用OK、ドーピングOKの競技会です。
通常の競技大会では禁止されている筋肉増強剤や精神興奮剤、造血剤や成長ホルモンなどを使用して、人はどこまで“超人”になれるかを競う大会です。
上記のような薬剤やホルモンが人体に有害であることは、かなり以前から知られていました。
現在は、世界反ドーピング機関により厳重に検査されています。
しかし、当初はドーピングを検出する技術も低かったため、1970年代~80年代、隠れたドーピングはピークを迎えます。
ちょうど冷戦時代です。
特に際立っていたのは、ソ連(今はありません)と東ドイツ(今はありません)です。
国威発揚、社会主義の優位性誇示のための国家プロジェクトとして行われていたようです。
男性ホルモンによる筋肉・筋力強化が中心でした。
元々男性ホルモンの少ない女子選手への効果は絶大でした。
女子砲丸投げは1987年ソ連の女子選手の記録が、女子円盤投げでは1988年東ドイツの女子選手が樹立した記録が、今でも世界記録です。
ドーピングが禁止されている現在、更新することが不可能な“化石記録”と言われています。
カナダのベン・ジョンソンが100m走の世界記録で金メダリストとなったのも、1988年でした。(彼は、世界記録・金メダルとも取り消されています)
十分な説明もないまま、未成年の頃から投与されていた女子選手たちからは、身体的健康被害はもちろん、うつ病や不安障害、薬物誘発性精神障害、自己同一性の混乱といった精神の病の発症も報告されています。
「科学とスポーツが融合し、人間の限界を再定義する」とうたいあげる“エンハンスト・ゲームズ”の主催者は、「医療の監督の下で行う」と安全性を強調しています。
一方、「健康被害が出るまで安全性などわかるはずもない。単なる人体実験」「観戦する側は、選手の努力より、どんな薬を使ったのかに興味を示すようになるだけ」と、反対する声も大きい競技大会です。
遺伝子操作による身体強化も認められています。
ドーピングによる暗い歴史を知っている世代は、多かれ少なかれ、戸惑いを感じるのではないでしょうか。「攻殻機動隊」の草薙素子のような人物が活躍するのは、マンガやアニメの世界だけで良い気がします。少なくともいましばらくは。
精神科医 野瀬 孝彦

