「その鉄道の行く先は・・・」
2024.04.16
昭和40年代の中ごろというのは43年にGNPが資本主義国内で第二位になったこと、45年の大阪万国博覧会の開催の二つの出来事を代表とする高度成長期のピークと、昭和48年のオイルショックに代表される、低成長時代への移行という、日本の経済史の中でも大きな変化の時代だったのですが、私は某商事会社の健康管理室に保健婦として就職しました。
商事会社がとても輝いていた時期でしたから、忙しかったけれど、とてもやりがいのある仕事でした。
とても優秀な方だった(過去形)社員の方が、時々(暇つぶしに?)訪ねてきて下さるようになりました。ちょっと変わった方だなぁと思っていました。ある日その方が「紙を貸してください」とおっしゃって、私が出した紙に地図を描かれたのです。日本地図の一部のようでしたが、はっきりとはわかりません。真ん中に鉄道の線路を書かれました。線路は二股に別れていて、「ここはどこですか?」とお尋ねしたのですが、唇に指をあてて「しーっ」とおっしゃって、にっこりされました。私はそれ以上何も言えず、次の言葉を待ったのですが、その方は何もおっしゃらず、穏やかな表情のままお帰りになりました。そしてそのまま、ご自宅にも帰られず、1週間後ご遺体で発見されたのです。私は何をすればよかったのだろう。もう少し突っ込んで鉄道の行き先を聞けば何かが変わったのだろうかなどとも思いましたが・・・その方が統合失調症を患っていらっしゃったらしいということは、後から聞かされました。
看護部顧問 坂田 三允