感染症とロシアウクライナ戦争とナイチンゲール
2025.03.05
昨年末はインフルエンザが急速に猛威を振るい始め、更に新型コロナウイルス感染症の第12波(?)の兆しが重なり、医療機関はどこも戦々恐々として新年を迎えました。
幸いなことに、手がつけられないほどの感染拡大とはならず今に至っています。
海外に目を転じると、今年初めにアメリカではトランプ氏の新大統領就任式がありました。好き嫌いは抜きにして、TVでこの人を観ない日はありません。“戦々恐々”として、観ているのかもしれません。
ここのところは、この新大統領がロシアウクライナ戦争を終わらせようとする動きに世界中の関心が集まっています。すでに両国で10万人以上の命が失われている戦争です。
それはさておき、ウクライナに属していたクリミア半島は10年ほど前にロシアに編入され、この時以降を、ウクライナ紛争と呼んでいました。
それもさておき、ここで私の関心は1854年の「クリミア戦争」と、この戦争で「白衣の天使」の象徴となったナイチンゲールへ一足飛びしてしまうのです。
歴史上の人物伝として、近代の偉大な女性として、フローレンス・ナイチンゲールの名前を知らない人はいないでしょう。
しかし、本当のナイチンゲールとは、どんな天使だったのでしょう?
ナイチンゲールは言います。「天使とは・・・・・人が忌み嫌う仕事を、感謝されることなく行う者である」英国女性の厳しい口調が響いてくるようです。
彼女が砲弾飛び交う戦場で、献身的に、自己犠牲を惜しまず、敵味方の差別なく看護した・・・などという事実はないようです。
伝説となった偉人というのは、その時代が抱く偶像として伝説となるのでしょう。
わが子を愛するように、どんな苦労もいとわぬ優しい母性で病める者に手を差し伸べる天使。この時代はそのような女性看護師に、ナイチンゲールという名前を付けたのでしょう。
時の流れはこのようなナイチンゲール像は虚像であると教えてくれます。しかし、これが虚像であることはナイチンゲール自身が一番よく知っていたようです。
彼女が派遣されたイギリス軍の陸軍病院の病棟は目を覆いたくなるほどの不衛生な環境でした。床はトイレからあふれた汚水に浸され、動物の死骸も下水からあふれている状況だったといいます。
クリミア戦争では、10万人ほどの英国陸軍のうち、約2万人が死亡し、そのうち約1万6千人は戦闘によってではなく、病院内で感染症で亡くなっていたのです。彼女はこの現状を母国に報告し、病院内の清潔を徹底し、換気を命令し、ギュウギュウ詰めだった病棟でベットの間隔をしっかり空け、密な状態を解消しました。まさに、現座の感染予防対策そのものです。「細菌」が発見される以前の話です。・・・詳しくは、またの機会に。
現代のナイチンゲールのプロフィールは、「近代医療統計学および看護統計学の始祖ならびに近代看護教育の母」となっています。虚像でも、偉人だったのです。
副院長 野瀬 孝彦