クマの被害と冬眠
2025.12.03
雪が舞い始め、冬の到来を知らせる時期になると「クマは冬眠する」
ごくごく自然なこととして、だれもが知っていることです。
ところで、なぜクマは“冬眠”するのでしょうか。
理由は、冬のあいだは山に食料がなくなるからです。
食べるものがなければ、動物は死んでしまいます。しかしクマは、この時期を生き抜くために、体温を下げ身体の代謝を極力抑えて“冬眠”することで、つまり食べなくても良い状態に身体のモードを切り替えることで、乗り切るのです。
この“冬眠”の秘訣はいろいろあるようですが、最大の秘訣は、クマは冬眠前に、大量の脂肪を蓄え、冬眠の間中、少しずつエネルギーに変えて使ったり、体温に変換したり、水分に変えたりすることができることです。
そのため冬眠の間中、体温を低めながらも一定に保っておくことができ、同時に、呼吸数や心拍数もその回数を減らしながらも動かし続けることができます。
つまり、眠っているのではなく、省エネモードで冬が終わるのを待っているのです。
一方で私たち人間はどうでしょうか。
冬山で“冬眠”はできるでしょうか。
できません。私たちは身体の代謝を冬眠モードに切り替えるといった機能を持ち合わせていません。
どれほど身体に大量の脂肪を蓄えていても、冬山で体温が下がっていくと、オレキシンやノルアドレナリンといった覚醒を維持する脳内の物質が低下してゆき、睡眠物質のメラトニンは増加してゆき、結局、死ぬまで眠り続けてしまいます。これが凍死の始まりです。
冬山で遭難したときに、「眠るな!」と叱咤する場面をドラマで見たことがあります。
人間の場合、低体温になると、代謝が崩壊してしまいます。どういうことか。体温が低下し続けると、エネルギーを作り出すことができず、脳をはじめとしてすべての細胞活動が停止し、最終的には死に至ることです。
クマの場合は、低体温になっても代謝が崩壊することはなく、脳が代謝状態を管理し続けることができるのです。
今年のクマの街中への出没の多さ、人に与えている被害の多さはこれまでにないものです。
人が安心して生活でき、クマも山の奥でゆっくりと冬眠できる方法はないものでしょうか。
*上に出てきた脳内物質については、機会があればもう少し説明を加えたいと思います
精神科医 野瀬 孝彦

