ストレス時代をたくましく生き抜く ⑤ストレッサーへの対処法
2026/03/20
ストレッサーが心身に及ぼす影響は個人がストレッサーをどのように認知し、それに対してどのようにコーピング(対処)したかによって異なります。コーピングには2つの方法があります。
1つは問題中心型コーピングで、ストレスの原因それ自体を変化させることを目的とするものであり、現実に立脚してその解決に取り組むものです。たとえば、仕事の業務量が多すぎてストレスを感じた場合、仕事量を調整してもらう、仕事のやり方を見直して業務量の軽減を図る、一旦休職して仕事から離れるなどのことが考えられます。
それに対して情動中心型コーピングはストレッサーによって生じた不快な情動のコントロールを目的とします。家族や友人、職場の同僚に愚痴をこぼしたりして、不快な感情を処理するのです。自分の中にある感情を言語化することで整理もできますし、話すことによって発散することができるわけです。
いずれにしても、問題を一人で抱え込まないようにすることが大切ということでしょうか。
看護部顧問 坂田 三允
ミラノ・コルティナ・オリンピックが終わって、次は“エンハンスト・ゲームズ”
2026/03/05
オリンピックロスになっている方々もいらっしゃるでしょう。
毎日手に汗を握り、「よくやった!」と拍手したりガッツポーズをしていた方々。
三浦璃来選手のように、驚きのあまり思わず両手で口を押えて、木原龍一選手を観てもらい泣きしてしまった方々。
神経伝達物質のドーパミンが大量に放出され“快感の渦”のなか、ノルアドレナリンやセロトニンも放出され“気分の良い興奮”状態です。
「次は何を観ようか・・」とワクワクしている時も、ドーパミンが放出されているのでしょう。
このオリンピックに気分高揚した方々は、“エンハンスト・ゲームズ”をどのように評価するでしょうか。
今年5月にラスベガスで予定されている、薬物使用OK、ドーピングOKの競技会です。
通常の競技大会では禁止されている筋肉増強剤や精神興奮剤、造血剤や成長ホルモンなどを使用して、人はどこまで“超人”になれるかを競う大会です。
上記のような薬剤やホルモンが人体に有害であることは、かなり以前から知られていました。
現在は、世界反ドーピング機関により厳重に検査されています。
しかし、当初はドーピングを検出する技術も低かったため、1970年代~80年代、隠れたドーピングはピークを迎えます。
ちょうど冷戦時代です。
特に際立っていたのは、ソ連(今はありません)と東ドイツ(今はありません)です。
国威発揚、社会主義の優位性誇示のための国家プロジェクトとして行われていたようです。
男性ホルモンによる筋肉・筋力強化が中心でした。
元々男性ホルモンの少ない女子選手への効果は絶大でした。
女子砲丸投げは1987年ソ連の女子選手の記録が、女子円盤投げでは1988年東ドイツの女子選手が樹立した記録が、今でも世界記録です。
ドーピングが禁止されている現在、更新することが不可能な“化石記録”と言われています。
カナダのベン・ジョンソンが100m走の世界記録で金メダリストとなったのも、1988年でした。(彼は、世界記録・金メダルとも取り消されています)
十分な説明もないまま、未成年の頃から投与されていた女子選手たちからは、身体的健康被害はもちろん、うつ病や不安障害、薬物誘発性精神障害、自己同一性の混乱といった精神の病の発症も報告されています。
「科学とスポーツが融合し、人間の限界を再定義する」とうたいあげる“エンハンスト・ゲームズ”の主催者は、「医療の監督の下で行う」と安全性を強調しています。
一方、「健康被害が出るまで安全性などわかるはずもない。単なる人体実験」「観戦する側は、選手の努力より、どんな薬を使ったのかに興味を示すようになるだけ」と、反対する声も大きい競技大会です。
遺伝子操作による身体強化も認められています。
ドーピングによる暗い歴史を知っている世代は、多かれ少なかれ、戸惑いを感じるのではないでしょうか。「攻殻機動隊」の草薙素子のような人物が活躍するのは、マンガやアニメの世界だけで良い気がします。少なくともいましばらくは。
精神科医 野瀬 孝彦
“はじめまして”
2026/02/20
わたくし、多摩あおば病院で、医療社会部 部長をしております関と申します。
職種は「ソーシャルワーカー」をしております。この度、当院のホームページにコラム執筆を許されましたので、時々ではありますが、精神科病院の中で働きながら感じる事や思うことを書かせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
突然ですが、皆さんはお仕事をする際、どのようにご自身の肩書をおっしゃっていますか? 私は資格としては「精神保健福祉士」の資格を持って、病院に勤めていますが、現場でどのように名乗るかはいろんな可能性があります。例えば「精神保健福祉士」「PSW」「MHSW」「ケースワーカー」「相談員」・・・等々。
名刺にどのような肩書を書くか、初めて会った人にどう名乗るか・・・仕事を始めた頃、先輩ワーカーさんに「よく考えなさい」と言われ、いろいろ考えた事を思い出します。
以来、わたしは「ソーシャルワーカー」と名乗ることに拘ってきました。それは私自身の仕事の土台となるものを常に意識し続けたいと思っていたからなのですが・・・
近年、精神科病院で働きたいと思う(精神保健福祉士養成課程の)学生さんが非常に減っていると耳にします。来年度の診療報酬改定の議論の中でも、精神科病院で働く精神保健福祉士が不足していると話題になっていました。私はこの病院での仕事が好きですし、とても魅力的な現場だと思っているのですが、未来を担う若者に、なかなかその面白さが伝わりにくいのかもしれません。
当院では、実習や病院見学等を積極的に引き受けています。このブログでも、精神科病院で働く「ソーシャルワーカー」の姿や思うところなどもお伝えできたらと思います。
文章を書くのは苦手ですが、今後とも、どうぞお付き合い頂ければと思います。よろしくお願いいたします。
医療社会部 部長 関 千尋
ストレス時代をたくましく生き抜く④ ストレスの原因と感情の変化
2026/02/05
強い影響を及ぼしているストレッサーに対して、自分ではどうすることもできないと感じると、心身がエネルギーを節約しようとして、活動性や意欲が低下し、抑うつ的な状態に陥ることがあります。集中力や思考力が低下して、物事を決断できなくなってしまいます。
他者とかかわることも億劫になるので、趣味や好きなことへの興味も わきません。ひどい時にはベッドから起き上がる事さえ億劫になり、家に閉じこもりがちになります。急に涙が出て止まらなくなるなど、感情が不安定になることもあります。 これらの情動変化は、ストレスから自分自身を守ろうとする自然な心の動きなのですが、過度な状態が続くと心身の不調につながるため、適切な対処が必要ということです。
また、ストレスによって引き起こされる生理的な変化は病気を悪化させたり、免疫系の機能を低下させてしまうので、病気にかかりやすくなりますし、ストレスは健康リスク行動(過度の飲酒や喫煙、過食など)を増加させます。
看護部顧問 坂田 三允
ストレス時代をたくましく生き抜く③ ストレスの原因と感情の変化
2026/01/21
今後の見通しが立たない時や、大切なものをなくしてしまうのではないかという恐れがある時や、危害を加えられるのではないかと思われる時には「不安」な気持ちになりますよね。ストレスが原因の不安は、動悸や震え、頭痛、不眠などの身体症状や、漠然とした不安感、イライラ、集中力の低下などの精神症状として現れるのですね。不安だと自覚していなくてもイライラしたり、集中力がなくなって、結果としてまとまった仕事ができず、ますますイライラが募るということもあるような気がします。ストレスは感情や衝動を抑制している前頭前野の支配力を弱めてしまうので、視床下部などの古い脳領域の支配が強まった状態になり、不安を感じたり、普段は抑え込んでいる衝動(欲望にまかせた暴飲暴食や薬物乱用、お金の浪費など)に負けたりするのだそうです。
もう少し詳細に見ると感情やストレスに関係するのは扁桃体というところだと言われています。扁桃体は脳の左右にある神経細胞の集まりで、形がアーモンドに似ていることから、「扁桃(アーモンドの和名)」という名前がついたのだそうですが、特に「恐怖」「不安」など、ネガティブな感情に深く関係しています。しかも、何かを見たり聞いたりしたときに、扁桃体はその内容をじっくり判断するのではなく、「これは危険か?」ということを意識する前に一瞬で判断して「危険だ」「不快だ」と感じると、視床下部からストレスホルモン(ストレス刺激で分泌され、反応を引き起こすホルモンの総称)が分泌されて血圧や心拍数が上がったり、筋肉が緊張したりして、「動悸」「手足が震える」「汗をかく」「吐き気」などの体の症状が現れるわけです。その後に「恐怖」や「不安」の感情がはっきりと感じられるようになるといいます。
また、身体が緊張した状態が続くと、扁桃体は他人の表情をよりネガティブに受け取るようになり、周りの人を怖く感じてしまいます。そうすると、仕事で困ったときも気軽に周りに相談できず、一人で抱え込んでしまうことになりますよね。さらに、周囲の人が「怖がっている顔」や「怒っている顔」をすると、扁桃体はさらに強く反応してしまうというのです。他人が怖がっているのを見ると、「自分にも危険が迫っている」と感じ、他人が怒っていると、「自分が攻撃されるかもしれない」と判断するからです。つまり扁桃体は、「危険」と思ったらすぐに体を緊張させたり、不安や恐怖の感情を起こしたりして、命を守るようにできているということなんですね。
看護部顧問 坂田 三允
2026年を迎えて
2026/01/07
2026年が始まりました。
2025年は皆さんにとってどんな年だったでしょうか。そして、2026年はどんな年になるでしょうか。
私にとっては、2025年はこの病院の院長のみでなく理事長も兼任し、名実ともに責任者になった年です。そして、2026年はある程度の形を作っていく年だと思っています。
「あるべきリーダー」みたいな本や情報にも接してみましたが、しっくり来るものは多くありませんでした。参考にしながらも、自分で考えながらやっていくしかないと思いました。
当院は「なるべく断らない医療」を実践しているつもりです。当然の結果としてかなり大変な方が来ます。措置入院や鑑定入院も受け入れていますが、それ以外の入院形態でもいろいろな方がみえます。「勉強になる」とは多くのスタッフから言ってもらえています。しかし、「大変な人をケアしているから」と言うことで、スタッフに対して何か特別の待遇ができるわけではありません。
そもそも医療は現在非常に厳しい状況に置かれているのは報道されているとおりです。物価が上がり、必要な経費が上がる一方で、病院の収入の中心である診療報酬は厳しく規定されていて、勝手な値上げなどができません。職員の給料アップもありますがわずかなものです。そして、本来であれば、大変な人にはそれだけの人手をかけ工夫をしなければいけないので、それに見合った診療報酬が欲しいところですが、日本の診療報酬はそういうふうになっていません。こういうのも苦しいところです。
幸いにして、当院にはいいスタッフがたくさんいます。なるべくその力を生かし、阻害しないようにしていきたいと思っています。「スタッフを大切にする」ということです。スタッフを大切にすれば、スタッフは患者さんを大切にしてくれると思います。もちろんスタッフの対応に問題があって患者さんに迷惑をかけるなどのことがあれば、それは共有し、スタッフと管理者との役割を考えて謝罪し改善に向けて努力します。また、たくさんのスタッフがいると、意見の違いなどもあって、皆の考えをそのまま通せるわけではありません。その中でも、なんとか協力する道を見つけていければと思います。1足す1は2以上にもなり得ますが、下手をすると1以下にもなります。このあたりは組織をどのように運営していくかの問題でもあります(集団精神療法の考え方にも通じますね)。これも幸いなことでありますが、当院はいい管理職たちにも恵まれています。
私自身が、この病院で、自分自身の能力以上の仕事ができていると感じています。この感じを、他のスタッフにも少しでも共有してもらえると嬉しいと思います。
私が真にスタッフを大切にしているか、それはスタッフに聞いてみなければわかりません。とりあえず、思いだけでもそうしていこうと思います。
院長 中島 直
ストレス時代をたくましく生き抜く② ストレスの原因と感情の変化
2026/01/01
ストレスの原因となるような出来事は多種多様ですが、一般的には3つのタイプに分けられるようです。まず第一に考えなければならないのは、外傷的な出来事です。大地震や台風などの自然災害や戦争・犯罪の被害などがあります。当たり前ですよね。でも、大きな出来事の時って、すぐにストレスというよりも、出来事に対処して疲れ果てたときにいろいろなことが起こるような気もしますけど・・・。また、これほどに大きな出来事でなくても、配偶者の死や、離婚、結婚、就職、転職など生活の変化を起こす出来事(ライフ・イベンツ)も、結婚や就職などおめでたいことですけど、新しいことに立ち向かわなければならないのですから、緊張もしますし、あれこれ考えて胃が痛くなって当たり前という気もします。当たり前と思って放置してしまうととんでもない大ごとになってしまうのかもしれないですね。
家事、育児、多忙、騒音など日常的に発生するこまごまとした事柄(デイリー・ハッスルズ)も避けることができないものであるためにストレスを生じさせやすいと言われます。そして、ストレスの原因に対する認知の仕方によって、気持ちにも変化が生じます
まず、ストレッサーの影響が大きくて、欲求不満になったり、自分にとって大切なものを失うことになると思うと「怒り」の感情が生まれます。怒りを感じると交感神経が優位になるので、体は興奮状態になります。私の場合、些細なことにもイライラして、つい言わなくてもいいことを言ってしまったり、普段はあまり気にしないのに、部屋が散らかっていることに我慢ができなくなって、バタバタと片付けたり…このバタバタが原因で、ものをどこにしまったか全く思い出せなかったり、手荒く扱ったせいで大切なもの壊れてしまったり…ますます「怒り」が膨れ上がるという事態になることも時には起こります。困ったものです。
看護部顧問 坂田 三允
クマの被害と冬眠
2025/12/03
雪が舞い始め、冬の到来を知らせる時期になると「クマは冬眠する」
ごくごく自然なこととして、だれもが知っていることです。
ところで、なぜクマは“冬眠”するのでしょうか。
理由は、冬のあいだは山に食料がなくなるからです。
食べるものがなければ、動物は死んでしまいます。しかしクマは、この時期を生き抜くために、体温を下げ身体の代謝を極力抑えて“冬眠”することで、つまり食べなくても良い状態に身体のモードを切り替えることで、乗り切るのです。
この“冬眠”の秘訣はいろいろあるようですが、最大の秘訣は、クマは冬眠前に、大量の脂肪を蓄え、冬眠の間中、少しずつエネルギーに変えて使ったり、体温に変換したり、水分に変えたりすることができることです。
そのため冬眠の間中、体温を低めながらも一定に保っておくことができ、同時に、呼吸数や心拍数もその回数を減らしながらも動かし続けることができます。
つまり、眠っているのではなく、省エネモードで冬が終わるのを待っているのです。
一方で私たち人間はどうでしょうか。
冬山で“冬眠”はできるでしょうか。
できません。私たちは身体の代謝を冬眠モードに切り替えるといった機能を持ち合わせていません。
どれほど身体に大量の脂肪を蓄えていても、冬山で体温が下がっていくと、オレキシンやノルアドレナリンといった覚醒を維持する脳内の物質が低下してゆき、睡眠物質のメラトニンは増加してゆき、結局、死ぬまで眠り続けてしまいます。これが凍死の始まりです。
冬山で遭難したときに、「眠るな!」と叱咤する場面をドラマで見たことがあります。
人間の場合、低体温になると、代謝が崩壊してしまいます。どういうことか。体温が低下し続けると、エネルギーを作り出すことができず、脳をはじめとしてすべての細胞活動が停止し、最終的には死に至ることです。
クマの場合は、低体温になっても代謝が崩壊することはなく、脳が代謝状態を管理し続けることができるのです。
今年のクマの街中への出没の多さ、人に与えている被害の多さはこれまでにないものです。
人が安心して生活でき、クマも山の奥でゆっくりと冬眠できる方法はないものでしょうか。
*上に出てきた脳内物質については、機会があればもう少し説明を加えたいと思います
精神科医 野瀬 孝彦
ストレス時代をたくましく生き抜く① ストレスってな~に
2025/11/19
現代人は、変化の速い社会の中で時間に追われ、複雑な人間関係に悩まされ、多くのストレスを抱えていると言われていて、 日常生活の中でも、“ストレス”という言葉はとても気軽にいろいろな場面で使われています。例えば、「最近ストレスがたまっている」とか「運動でストレス発散しよう」などのように。でも、あまりに幅が広すぎて、ストレスっていったいなんなの?と思ったのでちょっと調べてみました。もともとこの言葉は物理学で使われていて、「外からかかる力による物質の歪み」を意味していたのですね。この言葉を医学領域に取り入れてストレス学説を提唱したのがカナダの生理学者であるハンス・セリエ博士(1907-1982)です。博士は生体に作用する外からの刺激に対して、体に生じたひずみ(生体の非特異的な反応)の総称をストレス状態と定義しました。そして、外からの刺激に対するからだやこころの反応のことを“ストレス反応”と呼び、その反応を生じさせる刺激(ストレスの原因)のことを“ストレッサー”と呼びました。
現在一般的に用いられているストレスはこの両方の意味を含んでいるようです。つまり、ストレスとは外部環境の種々の要因が変化したとき、それが刺激となって生体に様々な機能変化が起こった状態ということになります。ストレスの原因としては、物理化学的(熱、音、放射線、化学物質、酸化還元状態の変化など)、生物学的(感染、寄生虫など)、精神的(緊張、不安、恐怖など)なものなどが挙げられています。多種多様です。また、これらの刺激を受けて変化する生体機能も様々です。きわめて日常的に共通に体験される精神現象であると同時に、筋肉の緊張や不眠などのさまざまな生理的変化をともなった身体的現象でもあります。重要な特徴として主観的・相対的であることが挙げられます。
看護部顧問 坂田 三允
高市政権誕生とOTC類似薬
2025/11/05
難産の末、2025年10月に高市早苗さんが総理大臣に選出され新しい政権が誕生しました。日本で初めての女性の総理大臣です。期待度も大きいようです。
とはいっても、物価高対策をはじめとして、直面する課題は山のようにあります。期待を裏切らない総理であってほしいものです。
その、山のようにある課題の中で、医療の現場で働く私の視線は、その中でも医療・社会保障制度の「給付と負担の見直し」というテーマに、自然に向いてしまいます。
保険料の軽減、医療費の抑制、セルフメディケーションの推進のため、「OTC類似薬を保険適応から除外して、自己負担とする」方向で議論されているというところです。
確かにこの議論は、以前からなされていました。
OTC類似薬とは、「市販薬に(成分が)近い処方薬」のことです。(ちなみに、OTCとは、一般の市販薬のことです)
簡単に言ってしまうと、ドラッグストアでも売っているような、鎮痛剤やアレルギーの薬、胃腸薬などは病院で診察を受けて保険で処方箋を出してもらってはいけない。保険を使わず自分でドラッグストアや薬局で自己購入しなさい、ということです。
確かに、このように徹底してしまえば、直接ドラッグストアや薬局へ行く人が増え、病院へ行く人は減る。そうすれば医療費は削減され、保険料も下がる。理論的にはそうなります。
更に、このような考え方は、“セルフメディケーション”の理念とも一致します。
セルフメディケーションとは、WHO(世界保健機関)の定義では、「自分自身の健康の維持・改善・疾病予防のために、自己の判断で医薬品などを適切に使用すること」となっています。
厚生労働省もこの流れを押しすすめてきました。セルフメディケーション税制も2017年に導入されています。しかし、浸透度・実際の利用などはまだまだ課題が多いようです。
一方で、この考えに強く反対する意見もあります。
軽症だろうと自己判断して市販薬を使用し医療機関を受診しなかった結果、重症化するケースを見落としてしまう可能性がある。また、所得の低い人たちや高齢者、慢性の病気を持っている方の経済的負担が逆に増加してしまう、などです。
確かに、花粉症などのアレルギーの場合、保険診療で薬を処方してもらうよりも、薬局で購入するとなると、かなり高額になってしまいます。
また、アレルギーだろうと思って市販薬を飲み続けてもなかなか改善せず、医療機関を受診したらアレルギーではなかった、などということもよくあることです。
しかし、ちょっとした鼻かぜや頭痛などでは市販の薬で済ませている人が多いのも、また事実です。実際、ドラッグストアには、選ぶのに困るほどの薬が陳列されています。それくらい需要があるというのも事実です。
さあ、新しい政権は、この課題をどのように処理するのでしょうか。非常に大きな課題であると思います。
最後になってしまいましたが、精神科領域の薬(抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬など)にOTC医薬品は基本的には存在しません。
精神科医 野瀬 孝彦

