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人間関係って難しい(-_-;); コミュニケーションについて思うこと①

2025.05.28

もうすぐ傘寿を迎えようとしている歳になったというのに、いまなお、人間関係とはなんと難しいものなのだろうと思うことがある。人は一人一人異なった存在であり、外的体験は共有できるけれども、内的体験を共有することはできない。何人かの人が同時に同じものを見、同じことを聞いても同じように感じるわけではない。人が人とかかわるというのはその異なったもの同士がお互いに近づいていくということである。逆にまた、人が存在するということは、他者がそこに何かの意味を見出すなら、存在している人が意図しようとしまいと、何らかのメッセージは伝わっていくものでもある。


ずいぶん昔のことだが、ある患者さんから、「就職の面接にいくんだけど、いつものグレーのバッグと新しい黒いバッグのどっちをもっていったらいい?」とアドバイスを求められたことがある。いつものグレーのバッグは手垢などでかなり汚れている物だったので、面接ならば、きれいな黒いバッグのほうが印象がよいと考え、「黒いバッグの方がいいかなぁ…」と答えた。面食らったのは次の日のこと。彼女は面接の帰り道でコンタクトを無くしたという。そして「いつものバックなら無くすこともなかったのに、あんたのせいでコンタクトをなくしたのよ!!」と電話口で怒鳴りまくられたのである。


私は「私の意見を言っただけで、黒いバックにしなさいとは言っていない。どちらかを決めたのはあなたで、私に責任はない」といくら説明しても、相手には全く通用せず、しばらくの間彼女の怒りは収まらなかった。ぶちぶちと「坂田はそういういい加減な人間なのだ」と言い続けた。彼女の立場に立てば、恐らく、面接という緊張を強いられる場に出かけなければならないことで頭がいっぱいになっていたのだろう。自分で考えるなどということができなくて、私を頼りにし、全面的に私の判断に任せた。面接の緊張が続いたせいで、コンタクトレンズのことなど頭の中からすっかり消えていたのだろうとふと思い「ねぇ、あなた本当に黒いバッグにコンタクト入れたの?グレーのバッグ見てみた?」と言ってみた。彼女は、まさに我に返ったような感じで「え?」と聞き返し、しばらく間をおいて「あった」と小さな声で答えた。「ほら、みなさい」と言いたいところだったが私は「よかったね。じゃぁ、今日はゆっくり休んでね」と言って電話を切った。


多少「もやもや」が残ったままではあったが、「ま、いいか」と自分の心にけりをつけたと言うわけである。


看護部顧問 坂田 三允